【子育てNot to doリスト 後編】

生活

前回まで「Not to doリスト 前編」「Not to doリスト 中編」と2回に渡ってお送りして来ましたが、今回「Not to doリスト 後編」最終章となります。

子供に対して”理想像”を押し付ける

ここでいう『理想像』というのは自身の子供に「〇〇とはこうあるべき」という考えを押し付ける事を指します。

この〇〇は分かりやすいもので言うと『性別』が挙げられます。
また、「長男なんだからこうしろ」「嫁なんだからこうしろ」と言った『家庭内でのポジション』を押し付ける事も含まれます。

今回は特にこの『性別』にフォーカスして解説をしていきます。

男性の理想像は現代でも「レディファースト」「強くなくてはならない」「経済的な自立」など様々ですし、理想の女性像も「お淑やかでなければいけない」「家事が出来なきゃいけない」「子供を産まなければいけない」といったステレオタイプの教育が子供に対して数々の悪影響を及ぼす事が分かっています。

この現代において、男の子を育てている親がいまだに「男なら泣くな・強くなれ」と教える親がいます。
女の子を育てている場合であれば、「イケメンで大企業に勤めている高身長の良い男性と結婚しなさい」といった様な”男性とはこうあるべき”という事を教える親もいます。

理想的男性像を押し付けられた子供は将来どの様な影響があるのでしょうか。
それは大きく分けて3つ有ります。

コミュニケーション能力の低下

アメリカ心理学会APAは過去の文献レビューを行った上で、西洋文化特有の理想的な男性像が子供に悪影響を与えると指摘しています。

親から理想の男性像を押し付けられると起こる影響として、まず感受性の欠如が起こる可能性があるという事です。

感受性とは我々が生活する中で、外界の刺激・印象を受けいれる能力です。
我々が音楽や芸術を見て感動するのはこの感受性という能力が強く影響しています。
また、感受性はコミュニケーション能力にとっても重要な要素です。

感受性が強い人は、他人の気持ちを察し、言われずとも理解してあげられる思いやりに溢れています。
相手のまなざしや表情から、言葉で表現されていない意向を読み取り、場の雰囲気を和ませるような発言をするなど、細やかな気遣いも出来る人です。
サービス精神が旺盛だったり、気配り上手だと言われる人が多いですね。

逆に感受性が弱い人感受性が欠如している人というのは、周囲の人や物事など自分以外には関心がない為、人の気持ちや考えを察することが出来ません。
人の気持ちを理解するのが苦手な為、気づいたら自分の話ばかりしていることもあり、周囲のとうまくコミュニケーションが出来ない事も多くなります。
男性の理想像を押し付けられて育った子供は、感受性が欠如することでコミュニケーションに一定の障害を持つ可能性が指摘されています。

プレッシャーによるストレス

「理想的な男性(女性)規範に従わなければならない」という強いプレッシャーの中で生活をする事により、ストレスを抱える傾向があります。

様々な文献やエビデンスにより、人生を台無しにする確実な方法として『完璧主義』が挙げられます。
『完璧主義』は年齢に関係なく、「うつ病」「不安」「自傷行為」「社交不安障害」「広場恐怖症」「強迫性障害」「摂食障害」「心的外傷後ストレス障害」「慢性疲労」「不眠症」「消化不良」「慢性頭痛」などを引き起こす可能性が指摘されており、特に問題なのは、完璧主義者は一度挫折を経験してしまうと、自殺に及ぶ可能性が非常に高くなるとのことです。

親から”理想像”を植え付けられる事により、子供は常に「理想を外れたらアウト」と刷り込まれていきます。
「男であれば理想の男性像にならなければならない」、「女の子であれば理想の男性像と結婚しなければならない」という「完璧主義が自動的に発動する」状態になるのです。

結果、強いプレッシャーの中で生きていく事になり、「自動発動した完璧主義」が故にストレスを抱え、最悪のケースに発展する、という事が考えられています。

攻撃的な性格・問題行動が増える

”理想的な男性像”を教え込まれた子供は攻撃的な言動や行動が見られたそうです。
また、それは幼少期の頃の早期の予防介入、つまり特殊なセラピー等を受診しない限り、長期に渡って継続が見られるとのこと。

これは『”理想の男性像”が脅かされた際に、攻撃的な行動・言動が現れやすい』というもので、例えば他人に馬鹿にされた際、「男は喧嘩に負けるな」「男ならやり返せ」といった教育を親から受けている場合です。

これは子供の中に”理想の男性像”が脅かされた=面子メンツが潰された、という考えから、「暴力」という「男らしさの象徴」である「力」で相手を屈服させる、という思考の流れによるもので、社会的な生活はもちろん危ういものになります。

誰しも生活の中で冗談やコミュニケーションの一環で人を小馬鹿にするといった場面は多かれ少なかれあるでしょうが、こうした理想の男性像を教え込まれた子供はそういった「ジョーク」の様な些細な事でもすぐに攻撃的な言動や行動が現れる傾向が強いのだそうです。

また、この研究では”男性の理想像”を押し付けられた子供は「いじめ」や「暴行」、「言語的な攻撃」に関与する可能性が増えるという研究結果が出ています。

加えて、身近な人や親密な人、つまり親や兄弟、パートナー、自分の子供に対してのDV行動が多い事も分かっています。

例えばパートナに対して「俺のこと馬鹿にしてんのか?!」とか、自分の子供に対して「父親のことを何だと思ってるんだ!」等、”男性像を脅かされた時”に攻撃的行動に出る傾向が強いのです。

現代は『ジェンダーレス』という言葉が浸透してきていますが、この流れによって『男らしさ』を強要する親が少なくなれば良いと思っています。

これらの研究から『男らしさ』、もっと言ってしまえば『人間とはこうあるべき』という理想像は押し付けてもロクな事は有りません。

時々日本の政治家にもいらっしゃいますが、この『ジェンダー』『LGBT』が中々理解出来ないご年配の方々が多いですね。
理解が追いつかない為に度々問題発言を発しますが、あの様な政治家が治めている国ですから、日本の犯罪率は先進国の中でも高いのかも知れません。

厳しい言葉や厳しいしつけ

前回の「Not to doリスト 中編」にて、『体罰が子供に与える影響』について解説しました。

では『厳しい言葉』『厳しいしつけ』はどの様な影響を与えるのでしょうか。

実は暴力や体罰と同じく「破壊的な結果」をもたらします。

ピッツバーグ大学などが「子供たちの精神的健康状態」「子育ての方法、親子関係の質」について公立中学校10校、967人の青少年とその保護者を対象とし、2年間に渡って観察研究を実施しました。

抑うつ症状のレベルが上昇

厳しい言動・しつけとは怒鳴ったり、人格否定をしたり、回りくどく相手を責める事を指します。
これらの厳しい言動、厳しいしつけを経験した子供は、鬱になりやすくなったとする結果が出ました。
更に、子供の破壊行動や反社会的(暴力的、攻撃的)などの行動の問題を示す可能性も高まったそうです。

前回までの「子育てNot to doリスト」をご覧頂いている方であれば「当然」、という感想でしょう。

これでは、何の為に厳しく育てたのか意味が分からなくなってしまいますね。

また、子供を「恥の感情」「罪悪感」でコントロールする事も子供にとって深刻なダメージをもたらします。

直接的に「それはダメだよ」と叱る事は決して悪い事では有りません

例えば、塾に通わせている子供のテストの結果が悪かったとしましょう。
その際に子供に対して「塾のお金をドブに捨ててる様なもんだね」とか「〇〇さんの子はあんなに成績が良いのにね」などの言動は直接的に子供の行いを叱っているのではなく、子供の「恥の感情」「罪悪感」に対して向けられた言動です。

悪い事をした時に、普通に言って聞かせれば分かる様な、論理的に語れば理解出来る様な内容にも関わらず、回りくどく伝えるのは子供に対して非常に大きなストレスを与えます。

厳しい言動、しつけも度を超えると人格否定までする親もいますが、その様な厳しい言動、言い回し、躾は子供自身も自信を失い、やる気も起きず、自分で考える事が出来ない大人になってしまいます。

理由は、厳しい叱責、深刻なダメージを与える言動は恐怖のみが心の中に残り、怒られた問題の本質が分からなくなってしまうのが原因です。
相手に「何故怒られているのか」を考えさせない限り、怒る事に意味はない、むしろマイナスの影響しかもたらさないという事です。

親の愛情・信頼の強さがあってもしつけの悪影響は軽減しない

これは個人的に衝撃的な結果です。

今回の研究では親と子の間の信頼関係がどれだけ強かろうと、それが愛情の一環だと子供に伝えていようと、厳しい言動やしつけが子供に及ぼす悪影響の度合いは変わらず、軽減すらもされない、という事が分かっています。

つまり、「仲が悪い親子」と「仲が良い親子」が同じ厳しいしつけを行った場合、子供にもたらされる悪影響・デメリットは何も変わらないのです。

子供の不安やストレスを軽視

今回で最終章を迎える「子育てのNot to doリスト」ですが、これまでの項目に全て目を通して頂くと、「そう言えば親にあんな事言われたなー」、「あれは言われて嫌だったなー」という様な強烈なストレスの記憶が蘇ってきた方もいらっしゃるかも知れません。

皆さん、誰しも自身の過去の経験から「子供の気持ち」というのは分かっていて、覚えている筈なのです。

しかしいざ自身が親になると、その様な記憶や当時の感情は忘れられていきます。

カリフォルニア大学の研究によって「親は子供の不安やストレスを軽視する傾向にある」という研究結果が出ています。

この調査は4〜11歳までの心理的に健康な子供228人を集め、「心配ごとの経験」について質問を行い、同時に両親に対しても子供に関するインタビューを行いました。

子供に対する質問としては「心配なこと、不安なことはあるか?」「パニックに関して」「社会的な恐怖があるか?』『分離不安症(愛着ある人や家から離れることに対して強く不安を抱いてしまう事)』等。

ここで得られた回答と両親のインタビューを比較した結果、「両親は子供が経験した不安・ストレスの大きさを過小評価する傾向がある」ということが分かったのです。

しかも、これは特に母親に強く見られる事も分かっています。

子供に必要なのは「経験」と「過程」。

例えば、あなたの子供がこれから保育園・幼稚園に通い始めるとしましょう。
その時、あなたは子供に向かってどの様に言葉を掛けてあげますか?

「大丈夫だよ」「すごく楽しいよ」「友達もすぐに出来るよ」、なんて声を掛けてしまいませんか?

思い出してみて下さい。
保育園や幼稚園でなくても、小学校でも良いです。
親であるあなたも子供の頃はとても不安や恐怖を感じませんでしたか?

自分でなくても、保育園・幼稚園の登園初日、小学校の登校初日、周りの友達でずっと泣いてしまっている子いませんでしたか?

子供たちにとってはまだ何も知らない、経験のない「無知」な状態でその様な環境にいきなり身を投じる事になるので、それは親が考えているよりずっと大きな不安や恐怖を感じるはずです。

しかし、親は「大丈夫だよ」「すごく楽しいよ」「すぐにお友達も出来るよ」と声を掛けてしまいがち。

それは何故か。答えは簡単です。

例に挙げた「保育園・幼稚園に行く」、『小学校に行く』という経験は、既に親自身が「経験済み」の事だからです。
そして、親は『経験のその先にある「結果」』を知っていて、その『結果だけを伝えてしまっているから』です。

基本的には保育園・幼稚園は危険な場所ではありません。
子供たちにとっては楽しいと感じる事の方が多いと思います。
生活の中で友達も出来るでしょう。

しかし、それは親であるあなたが子供の頃の経験を通して得た「結果」です。

大人に置き換えて考えてみると、バンジージャンプやジェットコースター等の絶叫系アトラクションが苦手な人に対して「大丈夫だよ」「すごく楽しいから」って強引に勧めるのと状況は似てるかも知れません

バンジージャンプやジェットコースターなどの絶叫系アトラクションを避けてきた人からすれば「楽しいから」だとか「大丈夫」なんて何の保証があって言っているのか、バンジーを飛んだ後の「結果」なんて知ったこっちゃないですし、どうだって良い筈です。

大人ですらこの様な未知の体験に関しては「本当に私はやりたくないのにどうしてやらなきゃいけないの?」「何でこんな事しなくちゃいけないの?」という恐怖とストレスしか湧いてきませんよね?

子供も同じです。

「大丈夫」とか「楽しい」という「結果」だけを伝えても理解はしてくれません。
逆に「親は自分の事を何も分かってくれていない」「こんなに不安なのに何で分かってくれないの?」という感情が湧いてきます

「自分の子は大丈夫」と楽観的に考えてしまっていると子供はこの様な強烈なストレス・恐怖や不安にさらされてしまいます。

子供は寄り添って欲しいのです。

「怖いよね。無理しなくて良いんだよ。」「お父さんが子供の時も、最初は恐かったなー。」という同調をし、理解をして寄り添ってあげる事が重要です。

親になることで忘れてしまいがちな、子供の頃に感じた不安やストレスを抱えた記憶。
子供が何故不安に感じているのか、何故恐怖を感じているのか。

それはひょっとしたらあなたの記憶の中に答えがあるかも知れません。

子供が何故その様な反応を示しているのか、過去の経験を振り返りながら、親として、人生の先輩として、寄り添って理解してあげる事が重要ではないでしょうか。

まとめ

全3部構成で「育児のNot to do リスト」についてお送りしてきました。
恐らく心当たりがあるものが少なくとも1つや2つあった方も多いのではないでしょうか。

子育ては楽しいことばかりではありません。
悩むことも苦しいこともたくさん有ります。

当然、感情的になってしまうこともあるでしょう。
それは貴方が真剣に育児に向き合っているからこそ起こる事だと思います。

完璧な親なんていません。
しかし、間違いを認識し正していく事は出来るはずです。

今回、大人の子供に対する態度や言動、行動の全ては、大人が考えている以上に子供に対して大きな影響を与えることは数々の研究のエビデンスが示しています。

親である貴方自身が後悔しない為にも、貴方の元に生まれてきてくれたお子様の為にも、今回の『子育て Not to doリスト』がお役に立てれば幸いです。

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